内視鏡

2017年10月30日 maki (閲覧数:34834)

内視鏡治療(手術)

 当院では内視鏡センター開設以降、8000件以上の内視鏡治療を行っております。胃癌・大腸癌・食道癌などの内視鏡治療として広く普及している従来法(EMRやPolypectomy)だけでなく、従来法では内視鏡治療が困難で外科的手術が検討されるような患者様を中心に、近年発展したESDという方法を導入し内視鏡治療を行っております。ESDによる内視鏡治療により、外科的手術を回避し内視鏡治療で癌を根治できる患者様が大幅に増加しました。ESDは高度な内視鏡技術が必要で、安定した治療成績でESDを行っている施設は限定されますが、当院では胃癌・大腸癌・食道癌などに対するESDを2000件以上行っています。大腸腫瘍(大腸癌・腺腫)に対するESDは2009年7月~2012年3月までは高度先進医療として臨床応用され、当院(真木病院)は厚生労働省より先進医療認定施設として承認されていました。(現在、大腸ESDは保険収載されており、先進医療制度は廃止されています。)

1)ポリペクトミー(Polypectomy)

 病変の茎部にスネアという輪のような形をした電気メスをかけて、高周波電流により切除する方法です。主に隆起したポリープの内視鏡治療で行います。

【写真下】15mm程の大腸ポリープです。ポリープの基部には長い茎があります。


【写真左】ポリープを切除する前に、茎にクリップという装置を使用し血液の流れを遮断します。この処置により切除後の出血を予防することができます。

【写真左】スネアという機器を用いて茎の部分を絞約し、高周波発生措置を使用し切除します。

【写真左】ポリープとクリップの間を切除することで、出血することなく病変を確実に切除することができました。切除後の顕微鏡による細胞の検査(病理診断)では大腸腺腫でした。腺腫の一部は癌化することがあるため内視鏡による切除が有用です。

2)EMR(Endoscopic Mucosal Resection;内視鏡的粘膜切除術)

 粘膜下層に生理的食塩水などを注入し病気を挙上させた後に、ポリペクトミーと同様の手技で切除する方法です。主に、平坦型や陥凹した病気の内視鏡治療で行います。

【写真下】8mm程の平坦型大腸ポリープです。青矢印の部位にポリープがあります。


【写真下左】NBI併用拡大観察(弱拡大)を行うとポリープは茶色の領域として認識され、ポリープの横方向の広がりが明瞭となります。
【写真下右】更に拡大倍率を上げてNBI併用拡大観察を行うと、ポリープ表面の毛細血管が黒い糸のように観察されます。毛細血管の構造に異型を認めたため、初期の癌の可能性が高いと判断し、引き続きEMRによる内視鏡治療を行いました。




【写真下】平坦型の大腸腫瘍を安全かつ確実に切除するため、内視鏡治療用の注射針を使用し大腸壁内部(粘膜下層)に生理的食塩水を注入し腫瘍を挙上させます。



【写真下】スネアという機器を用いて腫瘍と周囲粘膜を絞約し、高周波発生装置を使用し切除します。



【写真左】腫瘍は確実に切除されました。切除後の顕微鏡による細胞の検査(病理診断)では初期の癌(粘膜内癌)で、内視鏡治療で癌を根治することができました。

【写真下】切除後の粘膜からは、再び出血することがあります。再出血の頻度を低下させることを目的に、クリップという装置を使用し切除面を縫縮しました。尚、傷が治るとクリップは便と一緒に自然に排出されます。


3)ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術;Endoscopic Submucosal Dissection)

 胃癌・大腸癌・食道癌などに対する内視鏡治療はEMRやPolypectomyが普及していますが、大きな病変・遺残再発後の病変・潰瘍瘢痕や線維化を伴う病変は切除が困難です。ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)は、従来法(EMRやPolypectomy) で切除困難な大型病変や技術的に難しい病変であっても、きれいに切除(一括切除)することが可能となります。病変を一括切除すると精密な病理診断に基づく治癒判定が可能で、治癒と判断されると治療が完結します。ESDによる内視鏡治療で、外科的手術を回避できる方が増加している点も大きな利点です。

【写真下左】50mm程の早期胃癌(青矢印)の画像です。
【写真下右】NBI併用拡大内視鏡の画像です。腺管構造や毛細血管に異型を認め、初期の癌(粘膜内癌)の可能性が高いと判断しました。


この病変は50mm程と大型のため、患者様とご相談しESDによる内視鏡治療を行う方針になりました。

【写真左】切除を開始する前に、範囲を間違えないよう癌の外側に白色の印(マーキング)をつけます。

【写真左】NBI併用拡大内視鏡を使用しマーキングを行っています。青矢印の部位が癌と正常粘膜の境界です。マーキングする部位を間違えると、癌を取り残してしまうことや切除する範囲が大きくなり過ぎることがあります。当院ではマーキングを行う際にBLIやNBIを併用し拡大内視鏡観察を行い、癌の横方向の広がり(癌の範囲)を1mm以下の精度で精密に同定しています。当院ではこの方法でマーキングを行うことで、99%以上の患者様で癌の横方向の範囲を正しく判断できています。

【写真左】EMRと同様に癌の下の胃壁内部(粘膜下層)に液体を注入し、癌を挙上させます。ESDでは生理的食塩水ではなく、ヒアルロン酸という液体を注入し十分に癌を挙上させ切除します。


【写真左】癌を取り残すことがないようにマーキング外側の粘膜を切開しています。切除にはESD専用の電気メスを使用します。

【写真左】同様にESD専用の電気メスを使用し、癌の下の粘膜下層を少しずつ剥離しそぎ落としています。

【写真左】この病変は大きい癌のため従来は外科的手術(胃切除術)が必要でしたが、ESDにより癌を切除することができました。切除後の顕微鏡による細胞の検査(病理診断)では初期の癌(粘膜内癌)で、ESDによる内視鏡治療で癌を根治することができました。

【写真下】80mm程の大腸癌です。非常に大きい癌であるため、EMR等の従来法による内視鏡治療は不可能で、以前の標準的治療法は外科的手術でした。


【写真下】拡大内視鏡の画像です。NBI併用拡大内視鏡観察(写真左)では、腺管構造や毛細血管に異型は認めますが破壊は見られませんでした。染色法による拡大内視鏡観察(写真右)でも、腺管構造に異型は認めますが破壊は見られませんでした。以上の所見から、大型ですが初期の癌(粘膜内大腸癌)の可能性が高いと判断しました。粘膜内大腸癌は転移の可能性が無いため、内視鏡できれいに切除(一括切除)できれば外科的手術を回避することができます。患者様が希望されたためESDによる内視鏡治療を行いました。


【写真左】切除を開始する前に内視鏡治療用の注射針を使用し、癌の下の大腸壁内(粘膜下層)にヒアルロン酸を注入し癌を挙上させます。ヒアルロン酸が注入された範囲が明瞭に認識できるように、ヒアルロン酸には人体に害のない青い色素を混ぜています。

【写真左】大腸癌は癌の横方向の広がり(範囲)が明瞭に判別できるため、マーキングは行わずに、癌より3mmほど外側の粘膜をESD専用の電気メスを使用し切開します。


【写真左】癌の下の粘膜下層を少しずつ剥離し癌をそぎ落としていきます。大腸の粘膜は非常に薄く、安全かつ確実に剥離するためには高度な技術が必要となります。当院では、内視鏡先端に透明なフードという装置を装着しています。フードを利用し直径7mm程の小窓から粘膜下層の剥離を行い正確に治療しています。



【写真上】ESDによる内視鏡治療により、80mmの大きい大腸癌を内視鏡的に切除することができました。

【写真左】除標本の画像です。顕微鏡による細胞の検査(病理診断)では粘膜内癌であったため、ESDによる内視鏡治療で癌を根治することができました。

 

当院における大腸ESDの治療成績(2023年12月までの1294病変)
一括切除率 99.1%(1282/1294)
断端陰性一括切除率 98.8%(1279/1294)
偶発性発生率(出血) 1.3%(17/1294)
偶発性発生率(穿孔) 0%(0/1294)
平均治療時間 44.2分

 大腸ESDは非常に高い内視鏡治療技術が必要とされますが、幸い当院では深刻な偶発症が発生せず、ESDの最大の目的である一括切除は高い確率で達成できています。
 しかし、大変残念ですが一括切除できなかった方もいます。一括切除出来なかった12病変では、10病変で治療困難のため中止となり、2病変で治療困難のためEMR法による分割切除へ変更しています。また、粘膜下層深部へ癌が浸潤した3病変では、病理診断で深部断端陽性となりました。

4)内視鏡治療の精度

 内視鏡で癌などの病気を治療する場合には、病気全体を完全に切除し体の外に出す必要があります。その際に重要なことは、病気の広がりを正確に診断する能力と、安全・確実に切除する能力です。内視鏡治療の根治性を高めるためには、診断能力と治療技術の両者が備わっている必要があります。
 当院では内視鏡治療前に、BLIやNBIを併用した拡大内視鏡検査や超音波内視鏡検査で精密な術前診断を行っています。2023年12月までに当院でESDにより治療した2136病変(胃・大腸・食道・十二指腸)では、2123病変(99.4%)で一括切除できました(一括切除が不能であった13病変では、11病変は切除困難のため中止、2病変はEMR法による分割切除に変更)。一括切除できた2123病変では、腫瘍の横方向の取り残し(側方断端陽性率)は0.05%(1/2123)であり非常に安定した治療成績でした。

 

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