がん治療における正しい情報とは

2017年11月10日 maki (閲覧数:14635)

尾形敏郎Dr.

 真木病院は2017年10月31日、高崎ビューホテルで真木病院主任外科医長、尾形敏郎医師による健康講座「がん治療における正しい情報とは:芸能人から学ぶこと〜手術適応・抗がん剤から緩和医療まで〜」を開催いたしました。

 尾形医師は館林市出身で、群馬大学医学部卒業後、県立心臓血管センター、公立富岡総合病院などを経て2015年9月から現職です。専門は一般外科、消化器外科および血管外科です。DMATの隊員で東日本大震災の際にも活躍されました。また真木病院では緩和医療チームの一員として発足時から活動しています。

 当日はアンジェリーナ・ジョリーさん、小林麻央さん、川島なおみさんを例に「芸能人のがんの話題から学ぶこと」「抗がん剤の話」「緩和ケアの話」についてお話しになりました。

 ジョリーさんは乳がんと卵巣がんの発生が高くなる遺伝子に変異があるとして「乳がんになる可能性の確率が87%」と診断されました。実際に母親を含めて3人の近親者が遺伝性の乳がん、卵巣がんで亡くなっていることから、2013年に乳腺、2015年に卵巣・卵管の予防的摘出手術を受け、注目を集めました。

 小林さんは人間ドックで乳癌と診断されたのち、標準治療を勧められたものの拒否して気功などの民間療法に頼ってしまったことが知られています。

 川島さんは早い段階でがんが見つかったものの、治療の難しい胆管がんであったこと、「この人になら命を預けられると思える先生に出会うまで、手術はしたくありませんでした」とブログに綴るほど初診医との相性が悪かったことなどから、治療開始を躊躇してしまいました。最終的には手術を受けましたが、その後再発してからは最後まで抗がん剤治療を選択しませんでした。

 尾形医師がまず話したのは「標準治療」の大切さです。「標準」と聞くと平凡なごく普通の治療と思われがちですが、医療現場でいう標準とは「最善・最良」を指すそうです。誤解せず正しく認識してほしいとのことでした。一方「最新治療」という言葉も知られていますが、これは新しい抗がん剤、重粒子線治療、ワクチンなどに相当します。「最新治療がいけないわけではないが、正式な評価がなされるまでは、一般的にはまず標準治療を選択すべき」と話されました。

 選んではいけないものとして挙げられたのは「民間療法」です。ネットには民間療法に関わる情報が氾濫しており、藁にもすがりたいという患者や家族を惑わすものとして注意が必要であると力説されました。ただし、実は川島さんも純金の棒を使う民間療法を行っていたそうですが、それは治らないとわかってからの選択でした。そのような時の民間療法は宗教のようなもので、心の支えとしては意義があると尾形医師は話されました。川島さんが抗がん剤を選択しなかったのも、ご自分の置かれている状況を正しく理解されていた結果であろうと推測されていました。

 ジョリーさんは、検査結果から将来のリスクを減らすことを選択されました。川島さんは、残された時間を抗がん剤治療に使うのではなくご主人との暮らしを選びました。このように、①病気の情報をしっかりと得ること、②抗がん剤治療は頑張りすぎず自分の生活を大切にすること、③手術でも抗がん剤でも治療のメリット、デメリットをしっかり説明してくれる主治医を見つけること、とまとめられました。

 最後に尾形医師が取り組んでいる緩和ケアについて話されました。緩和ケアは、治療だけを優先するのではなく生活の質(QOL)とのバランスを取るものとして、早期から開始するようにWHO(世界保健機関)も推奨しているそうです。真木病院でも医師、看護部長、各病棟・外来看護師、理学療法士、作業療法士、薬剤師、管理栄養士、社会福祉士、医療事務の合計14人による緩和ケアチームが患者様をサポートしています。

健康講座は年2回、春と秋に開催しております。どなたでもご参加いただけますので、ご興味をお持ちの方はお気軽にお問い合わせください。