狭心症・心不全のガイドラインに則った治療法について

2025年5月29日 makikai (閲覧数:60)

前県立心臓血管センター副院長・安達医師

前県立心臓血管センター副院長・安達医師
2025年5月27日(火)、医療法人真木会では、第26回せんだんの会 健康講座を開催いたしました。今回は、前群馬県立心臓血管センター副院長であり、真木病院 非常勤医師で循環器内科専門の安達 仁(あだち ひとし)医師を講師にお迎えし、「狭心症・心不全のガイドラインに則った治療法」についてご講演いただきました。
安達医師は群馬大学医学部をご卒業後、東京都老人医療センターや米国ハーバーUCLAメディカルセンターでのリサーチフェローなどを経て、群馬県立心臓血管センターで長年勤務されました。2018年からは副院長を務められ、2020年より群馬大学臨床准教授も兼務されています。現在は当院にて非常勤医師として診療にあたられており、日本循環器学会認定医・専門医をはじめ、日本糖尿病学会専門医・指導医、日本心臓リハビリテーション学会認定医などの資格をお持ちです。循環器疾患の治療指針(ガイドライン)策定にも関わってこられた、日本を代表する循環器内科の専門家です。

狭心症の正しい理解と診療の進め方

講演の冒頭では、狭心症の中でも「安定労作性狭心症」と呼ばれるタイプについて詳しくご説明いただきました。これは、運動したときや寒い場所に出たとき、食後や喫煙時などに胸の痛みが起きる一方で、安静にしていれば症状が治まるという特徴があります。
このような症状が現れた場合、まずは非侵襲的検査(身体に負担をかけない検査)として心電図、心エコー、運動負荷試験を行い、必要に応じてCT検査や心筋シンチグラフィといった画像診断を経て、最終的には心臓カテーテル検査によって診断を確定するという流れが、ガイドラインに基づく基本的な対応とされています。
安達先生は「狭心症と診断されたからといって、すぐにカテーテル治療を行う必要はありません」と強調され、まずは薬物療法と心臓リハビリテーションをしっかり行うことの重要性を説かれました。「実は狭心症の患者さんの約3分の2は、カテーテルを使わなくても改善する可能性がある」という事実に、多くの参加者が驚きを感じた様子でした。

心筋梗塞リスクは“狭さ”ではない

次に、狭心症と密接に関連する「心筋梗塞」について、非常に印象的なお話がありました。
私たちは「血管が狭くなると心筋梗塞を起こす」と考えがちですが、実際には血管内にできた脂のかたまり(プラーク)が不安定化し、そこに小さな傷ができることで血栓が生じ、血流が止まってしまうことが原因だとされています。つまり、「血管の狭さ」自体ではなく、「内壁のもろさ」と「脂のかたまりの性質」が心筋梗塞を引き起こす決定的な因子なのです。特に注意が必要なのは、「症状のない人」の方が危険である可能性があることです。狭心症による胸の痛みがある人は無意識に運動を控える傾向がありますが、無症状の人は気づかずに体へ負担をかけ続けるため、ある日突然、心筋梗塞を発症するリスクがあるとお話されました。
また、喫煙やPM2.5などの大気汚染、怒りやストレス、暴飲暴食といった日常的な生活習慣が、血管の内壁をもろくしてしまう要因であることも挙げられ、「心筋梗塞は日常の“無茶”が引き金になる病気」として、生活習慣改善の必要性を訴えられました。

慢性心不全は“全身の病気”

講演の後半では、「慢性心不全」に関する内容に移り、「心不全は心臓の病気ではなく、全身の機能低下が関係する病気です」と先生は話されました。
心不全というと、心臓のポンプ機能が低下して息切れやむくみが出る症状と思われがちですが、実際には筋力の低下や血管の機能、自律神経のバランスなども大きく関わっており、単に心臓の治療だけでは改善しないとされているそうです。そのため、早い段階からの「心臓リハビリテーション」の実施が推奨されており、生活指導や運動療法、食事管理などを通じて、全身の状態を整えていくことが心不全の進行予防に繋がると仰いました。とくに早期の心不全(ステージA・B)で適切な対応を行えば、より重篤な状態(ステージC・D)への進行を防ぐことができ、生活の質を大きく向上させることが可能になるとのことです。

「CPX」検査で見えること

最後にご紹介いただいたのが、「CPX(心肺運動負荷試験)」という検査です。これは、自転車をこぎながら酸素の摂取量を測定し、どのくらいの運動まで安全に行えるかを客観的に評価する検査で、狭心症や心不全の重症度を把握するだけでなく、患者一人ひとりに合った「運動処方」の作成に役立つものです。「階段を上ると息切れがする」「疲れやすくなった」といった日常の何気ない症状も、CPXによって原因が心臓にあるのか、筋肉の弱さなのか、あるいは精神的な要素なのかを明らかにする手がかりとなると仰いました。

安達先生は、「CPX(心肺運動負荷試験)によって、患者一人ひとりの体力や心臓の状態に応じた“適切な運動の強度”を見極めることができ、それをもとに心臓リハビリを行うことで、安全かつ効果的な治療が可能になります」と説明されました。
そして、「この検査とリハビリの組み合わせは、治療の進め方を示す“地図”のような役割を果たします」と述べられ、科学的根拠に基づいた“自分に合った治療の道筋”を把握することの大切さを伝えてくださいました。
前県立心臓血管センター副院長・安達医師による健康講座を開催しました
当日は「せんだんの会」にご参加いただいた会員の皆さまを中心に、多くの方にご聴講いただきました。会場では、皆さまが熱心に耳を傾ける姿が見られ、講演後には個別の質問も多数寄せられるなど、循環器疾患に対する関心の高さがうかがえる充実した時間となりました。
今後も医療法人真木会では、地域の皆さまの健康維持と予防医療の普及を目的に、専門医による健康講座を開催してまいります。次回開催もぜひご期待ください。